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こそこそ。 気の向くままに勝手に書いてます。 フィクションです。 出てくる人には関係ないです。



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「人間はなに小さい事を作ってよろこんじゃってるんだろうね。」

レコーディングの休憩中、けんちゃんがぼそっとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。





「そんなこと、てっちゃんに聞かれたらたいへんよ~?」
おれは入れたばっかりのコーヒーをすすりながら、
屋上にひとりで煙草をすっているけんちゃんにくっつく。

空はもくもくと白光りして、空気はからからに乾燥している。
ときおり吹き付ける木枯らしがコーヒーの湯気を顔にあてる。

けんちゃんはなにも言わず顔をこちらにむけて「むふっ」と笑った。
「なによそれ?」
おれも少しわらって返事をする。

「昨日さぁ、テレビみてたの。自然とか世界遺産とかそういうのを見せるやつ。
 そしたらそれがすごいきれいでさ~。
 海とか空とか、こことは訳がちがうのよ。
 どっかの国の元戦地だった場所にはね、一面のひまわりが咲き誇ってるの。
 黄色いじゅうたんでさぁ。
 普通に生きているとそういう所があるの忘れちゃうよね。
 そういうのみると、もう自分が曲作ったりしても、
 それがどうした!結局自然とかそういうでっかいもんには敵わないし、
 どうにもなんない。とか思って、
 なんとなくむなしくなっちゃうんだよね~。」

けんちゃんはどっか遠くをみつめながら言った。
煙草の灰がぽとりとおちる。

「いや、最初から自然と闘おうとかおもってないけどね。」
ってあとから付け足して、もたれていた手すりに今度は背中をあてた。



「前に映画監督かなんかが同じ様なこといってたよ。
 本当は地球の今の現状とか、人間同士の社会とかに向き合わないと
 いけないんだろうけど、僕たちは作り物の世界を作って、
 意見を言い合って、なにしてるんですかね。って。」

「うーん。あぁそんなかんじ!そんなかんじ!
 おれらはいったいなにをやってるんですかね~。
 レコーディングをして、ライブをして、それがなにか地球の為に
 なってるんでしょうか?
 そこのところどう思ってらっしゃいます?ハイドさん?」

「地球の為にはなっていないと思います。
 しかし、僕にはこれしかできないし、アートとかそういう芸術的な事を
 している人はみんなぼくらと同じだと思います。
 人間同士がこそこそと勝手に楽しんでいる文化のなかに
 僕らはいるんだと思います。」




「はぁ~。」

2人で長いため息をつく。
けんちゃんは2本目の煙草に火をつけて、
おれはコーヒーをすする。





「結局ね、スパンが全然違うのよ。人間と自然とじゃ。」
けんちゃんが空を見上げながらいった。

「自然はさぁ、そりゃあもう多大なる時間をかけて山だとか海だとか築いているわけよ。
 でもさぁ、人間はたかがどんなに頑張っても100年よ。
 そりゃあやれる事がちがいますからなぁ。
 だからおれはたかが100年しか生きられない人間がよ、 
 30年かけて築き上げるダムに惹かれちゃうのかもしれない!」

「そこでダムがでてくるのはけんちゃんらしいよね。」
さっきまで深刻な顔して話していたけんちゃんの口からダムの言葉が
でてきておれはちょっとおかしくなった。
やっぱりこの人は頭がいい。


「じゃあさぁ、まだダムの30年まではいきませんが、
 15年かけて築いてきたラルクアンシエルというバンドも、
 けんちゃんにとったらまあまあ惹かれるものなんじゃないの?」


「あぁ。そうかもねぇ。おれらも15年ねぇ~。
 まだダムの半分やけど、結構がんばったねぇ~。
 おれらもおっさんになるわけやね~。
 どうする?もうすぐ40よ?」


「そうねぇ、もうすぐ40ねぇ。すごいよねぇ。
 だからさぁ、おれらがこうやって15年もこの世界で生きてられるのは
 そのぶんいろんな人たちがラルクアンシエルを好いてくれてるからだよね。
 だからその、自然には敵いませんが、おれらはこの小さい人間の中で
 おれらを好いてくれてる人にたくさん曲をつくらねばいかんのですよ。」



「ですよねぇ。
 スタッフのためにも俺らが頑張らないといけないんですよ。
 もうこれはおれが辞めたいといっても辞められない流れですよね。
 あぁ。最初始めたころはハイドとこんな長いつきあいになるとか
 考えてないから人生は不思議よね~。
 どこでどうなるかわからないよね~。」


「そうですよ。
 おれなんか、この歳してまだ髪の毛長いとか考えてなかったし。
 でも、まぁでかいこと考えるとわからなくなるしさ、
 とりあえず近くの人の為に頑張りましょうよ。」



おれはけんちゃんに笑いかける。
けんちゃんの声もだんだん軽くなってきて、ぼさぼさの髪の毛が
なんだかあったかそうに見えてきた。


おれがポケットから煙草をだしたら、けんちゃんがそっと火をかしてくれた。
けんちゃんももう1本煙草をくわえて、ふーっと煙を吐いた。


「これ吸い終わったら、とりあえず一番ちかくのテツとユッキーの
 為にスタジオもどろーね~。」

そういったけんちゃんは間延びした語尾みたいにやわらかい空気をだして
美味しそうに煙草を吸った。


 
 
 

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10代の頃はお酒ばかりのんでいた。
大人の飲み物に手を出しているちょっとダメだなぁという感覚が好きだったし、
飲んでその場がおかしくなるのが楽しかった。
といってもすぐによって眠ってしまうのだけど。

最近はジンジャエールが好きだ。
あのぷつぷつと舌にあたるささやかな刺激と、甘くなりすぎない味、
透き通ったゴールドが静かに落ち着きを運んでくる。
お酒が弱い自分には、とっておきの大人の飲み物だ。


 

 

ハイドとケンさん。

 

 

 

日が窓から射し込む午後、久しぶりに具合が悪くなった。

原因はいくつか思い出せるのだけど、自分でもなにが本当なのかわからない。

このまま部屋に閉じこもっていたら余計おかしくなりそうなので、

いつもなじみの友達を呼びだした。

携帯のメールにはちゃんと具合が悪いことを伝えて。

彼は「どこかにいく?」と、自分の望んだ答えをメールで届けてくれた。

待ち合わせ場所まで久しぶりに歩いてみることにした。

冬なのになぜか日差しが柔らかかった。

その日差しが皮肉にも自分を無視して時間が進んでいる気がした。

なんの期待もなく、なんの不安もなく、ただ、誰かに会いたくて、側にいてほしくて。

歩いていると途中に胃がキリキリと痛む。

何度かにわけて痛みが襲い、途中で足を止めてしまう程だ。

あぁ。意外ときてるなぁ。と歯を食いしばりながら思う。

 

待ち合わせのカフェに友達はもういた。

いつもと変わらない顔に安心感を覚える。

「突然呼び出してごめんね。」と言うと、

彼は「大丈夫だよ。」と答える。

当たり前の光景が嬉しい。

胃が痛いのに濃いめのコーヒーをたのんで、ちびちび飲む。

おいしさもなにも感じない。

自分の体をいじめているのが、なにか奇妙だ。

仕事帰りの友達は楽しそうにいろいろな話をしてくれる。

仕事仲間の話だとか、最近みつけたバーの話だとか。

彼の様子はいつもと全く変わらなくて、楽しそうだ。

だが、今回は調子が悪い自分にとっては逆効果だった。

最初は目を見て、うなずいたり、話にそった質問をいれたりして、彼の話に乗っていたけど、

だんだんそれも難しくなってきた。

具合が悪いことを知らせてあるんだから、自分の楽しい話ばかりをされても困る。

友達を自分から誘ったのに、そんな我が儘を思い、それにも罪悪感を感じた。

もう、友達の話を聞くのも嫌になったし、具合が悪い自分に気付いて欲しくて、

途中からは目は宙に向き、反応もしなかった。

そうしたら、少しは気付いてくれるか、自分の話を聞いてくれるかと期待したからだ。

でも、彼はやっぱりうるさく話しをつづける。

ため息がでそうだった。

濃いめのコーヒーを飲むピッチがあがり、余計に胃を痛めつける。

精神的か、それともコーヒーのせいか、胃は痛くなるばかりだ。

「どうしたの?ぼーっとしてるよ。」

ようやく友達が話しかける。

もうだめだ。とおもった。

今日はもう、こいつと一緒にはいられないな。

今日は誰かに頼りたい気分だったのに、それも無理だったな。とあきらめた。

 

 

「ちょっと電話いれなきゃいけないとこあるから。」

そう口実をつけてカフェの外に出る。

煙草に火をつけて、煙を吐き出す。

白い煙がいつの間にか寒くなりだした空に登っていく。

それをぼーっと見つめながら携帯を手に取った。

メールが来ていた。

『知ってた?ポロってブランドあるじゃん。あれって馬にのってボール使うゲームなんやって~』

なんだこれ?

けんちゃんからだった。

思わず笑いがこぼれる。くだらない。

『知らなかったわ~。今日調子悪くて、今友達とあってんやけど、なんか余計鬱になったわ。

まだ仕事はたまってるし。なんかうまくいかんな。』

普段まめに返さないメールをすぐに打った。

冷たい風が煙草の灰を落とす。

頬にあたる冷気が気持ちよく、吐く息が白く染まって、なんだか気分も白くなる。

『でしょ?知らないよね~。世の中には知らない事が沢山あるよね~。

ちょっと休めば~?あんま恨詰めるとおかしくなるよ。』

けんちゃんは不思議だ。

別に特別な事を言っているわけではないのに、空気が柔らかい。

人柄が可愛らしいのだと思う。

言って欲しい言葉を空気と一緒にくれる。

いつのまにか、顔が少し笑っていた。

そうだな。すこし休もうかな。

携帯の時計は電話をすると言ってから10分たっていた。

もう、少ししか残ってない煙草の最後を楽しんで、メールを打つ。

『ありがとう。ちょっと元気になったわ~。』

 

いつの間にか胃痛は和らいでいた。

人間って不思議なもんだな。

気をとりなおして、友達のところへ戻る。

今日は早いところ別れて、家に帰ろう。

ひさしぶりに溜めてあったDVDを見ようかな。

ゆっくりと時間が流れる田舎町の古い映画があったはずだ。

 

「お待たせ」

そう友達に言った声がさっきよりも和らぐ。

 

 

 

 

 

 

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